名演は記憶とともに

全道大会の切符を得られずに3回目の夏を過ごした僕は、一応の達成感を得て高校の部活を引退した。
下校時刻が早くなって、週3のペースでジャズ喫茶「SAB」に寄ってから帰宅した。
いつも練習後、真っ暗な時間帯に寄っていた店に、西日をガンガン受けながら入るのは、優越感と罪悪感が入り交じった不思議な気分だった。 手作りの木の扉を軋ませながら開けると「ボクのウエルカムソングじゃないか?」と勘違いするほどかかっていたそのレコード。すっかりハマッてしまい自分用を購入してしまった。今思えば、雇われマスターのササキクンのマイブームだったのかも知れない。

重苦しいのに印象的なマッコイ・タイナーのピアノ、決して綺麗な音じゃないのに耳につくコルトレーンのソプラノサックス。
店内にはマスターのオリジナルで1.5m×1.5mくらいの大きなスピーカー。右上の角に「JBL」の赤いマーク。
少し焦げたコーヒーと煙草の混ざった匂いが、薄暗い店の壁に天井に張り付いている。
空間に飽和したコルトレーンの音が結露のようにボトボト落ちる。
向かいの席に座っていても会話出来ないくらいの音が渦巻いていた。

このまま受験して、偶然にも合格して酪農を継ぐことで後悔はしないのか?
本当にやりたかった事は何だったのか?
あと数ヶ月の高校生活でやり残している事は本当にないのか?
彼女の事を本当に好きなのか?
大音量の中で取り留めない事をグルグルと考えていた。

そんな日を何日繰り返したか忘れたが、答えなんか見つからないうちに受験モードに急降下した。
このCDを聴くと今でも鮮明に想い出せるあの光景。

 

My Favorite Things(マイ・フェイバリット・シングス=私のお気に入り)」は、映画「サウンド・オブ・ミュージック」(1965年)で使われています。この映画からは、よく知られた曲が幾つかあります。♪ドーはドーナッツのド~の「ドレミの歌」、中学の音楽の教科書で、英語の歌を歌ってみよう・・・と載っていた「エーデルワイス」など。

オーストリアのトラップ家に住み込みの家庭教師として入った「マリア」。
寂しい時や悲しい時にこの歌を歌えば元気になるわ・・・と7人の子供たちに教えた曲。

バラに光る雨粒
子猫のおひげ
あったかい毛布
トナカイのそりの鈴
リンゴのシュトルーデル(←林檎のパイ包みみたいなものらしい)
白いドレス
私の鼻とまつげにとまる雪
これもみんな私のお気に入り
(略)
犬にかまれたり
ハチにさされたり
悲しい気分の時も
好きなものをひとつひとつ
おまじないのように思い出せば
どんないやな気分も吹っ飛ぶわ!!

という曲です。 コルトレーンのこの演奏をきっかけに、沢山のミュージシャンが演奏するようになり、今ではすっかりスタンダード化しています。是非一度、名演をご堪能ください。

http://youtu.be/qWG2dsXV5HI